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『世界ふしぎ発見!』 30周年へ

しばらくブログを書かずに時間がたちました。そういう時間も必要です。
ネット上で少し沈黙して、孤独になりたいという心境でした。
仕事の息つく間もないスケジュールで、自分の歴史を見失うところでした。

『テレビジョンは状況である~劇的テレビマンユニオン史~』 (岩波書店刊)で、私が社長を引き受けざるをえなくなった経緯は書きましたが、そのときレギュラー番組が 『遠くへ行きたい』 だけの1本になり、独立プロダクションとしての危機でした。テレビマンユニオンを離脱するメンバーが多かった時期で、私は社長を引き受けました。その時、白板の名札が隙間だらけになったことをしっかりと記憶しています。それを救ったのが 『世界ふしぎ発見!』 でした。この企画、リーダーズ・ダイジェスト社の 『世界不思議物語』  を手にした時に浮かんだ企画です。企画室のスタッフがそっと渡してくれたこの本がテレビマンユニオンを経済的に救うことになります。成立の経緯は 「劇的テレビマンユニオン史」 に書いておきましたが、キャスティングの経緯秘話を少しお話ししておきましょう。最初にお願いしたのは黒柳徹子さん。私は黒柳さんとは23歳のTBSの演出部在任中にお会いし、それ以来今年で50年のお付き合いになりますが、レギュラー番組のお話をしたのは 『世界ふしぎ発見!』 が初めてでした。

クイズ番組には原則出演しないという黒柳さんに、「これは普通のクイズ番組ではない、歴史を話題にしてクイズを交えるクイズ&トーク番組です」 とお話しご理解いただきました。黒柳さんは 『歴史の本が黒く塗りつぶされる戦中の歴史教育を受けたので、改めて歴史を勉強したい、その勉強のために良い機会であるなら』 とおっしゃってお引き受けくださいました。そのかわり、「何をテーマにするかは教えてください。それでないと歴史を勉強しようという気にならないの」 という正当な申し出でした。その約束は1300回を越え、1400回を迎えようとする今も続けられている約束です。このテーマは他のゲスト解答者にも公平に教えられています。勉強の成果か、彼女の天才的な勘か圧倒的正解率を誇っています。正解率の秘密はもちろん経験と知識によるものですが、加えて彼女の人間洞察力が大きな要因ではないかと私は思っています。草野さんの司会の表情、言い回し、クエスチョンに対しどういう答えを書けば視聴者が驚き、喜ぶかを考えながら、解答しています。制作者なら何を考えてこの問題を作っているかまで予想してくるのです。だからこその正解率で、彼女の解答者席に残されているメモを見ると、答えに至る彼女のしたたかな、そして見事な推察が見えてきます。スタジオが終わって、自分の正解率が高いと 「今日の問題は良かったわ」、正解率が低いと 「今日の問題、すこし変じゃない」 と笑いながら言います。そう言われても、黒柳さんが全問正解になる問題では面白くありません。でも黒柳さんの指摘が結構正鵠を射ていることが多いのです。だからもっと素晴らしい問題を出して、黒柳さんに当てられない問題を創る、それがロケディレクターの密かな野望です。放送には現れない楽しい戦いです。だからこそ  『世界ふしぎ発見!』  はエネルギーを失わないで今日まで人気番組の生命を保っているのだと思います。