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是枝監督の静かなる熱情

第71回カンヌ国際映画の授賞式生中継を真夜中にテレビで見る。
私は是枝監督の作品が映画祭の招待作品として選ばれ、カンヌ国際映画賞のレッドカーペットの階段を二度のぼる経験をした。最初は2001年の『ディスタンス』、次に2004年の『誰も知らない』。上映が終わった時、流れる字幕から拍手が始まるスタンディングオべ―ションには作品への評価だけではなく、創造に対する客からの共感と連帯の心を体感する。

あの空気は創造者にとって生涯忘れられない一瞬になる。

カンヌ国際映画祭にはいつも独特の映画哲学が感じられる。授賞式でも社会的発言が聞こえる。創造者は沈黙しない。今年の授賞式でも具体的な名前を出すセクハラへの抗議発言が生まれた。「映画は社会から生まれた表現だ」という緊張感がカンヌ国際映画祭には漂っている。今年のコンぺティション招待作品も社会派の作品が多かった。是枝作品も親のDV、万引き、覗き部屋風俗などそこに漂う社会性を心の視点から丁寧に描きなおしている。
50年前の1968年、ジャン・リュック・ゴダールはカンヌ国際映画祭の方針に抗議し映画祭を中止させた。それからの50年を記念してゴダール監督は今年スペシャルパルム・ドールを受賞する。あれから50年、今は87歳の彼は受賞式には出席できず、ツイッターでコメントを送る彼の新世代感覚を見せてくれた。
1968年はパリの5月革命から始まり世界に改革の嵐を呼んだ年である。テレビマンユニオンもその時代の旧体制に対する意識改革を原点に1970年に誕生した。そのテレビマンユニオンではじめて映画を創った青年、是枝裕和監督が今パルム・ドールを受賞した。
授賞式では選ばれた作品の受賞候補者たちが定められた席に座る。各賞が発表されていく。脚本賞、女優賞、男優賞、監督賞、審査員賞、グランプリ、パルム・ドール賞。
受賞予定の招待者には必ず何らかの賞が授与される。あとはどの賞かということである。17年前、是枝監督の作品『誰も知らない』で受賞したときは男優賞をこれまでの最年少14歳の俳優柳樂優弥が受賞した。学校の授業に日本に帰していた中学生の受賞に会場にいた私たちも驚きながら感激した記憶が今も残る。
今年の授賞式も各賞の発表ごとにパルム・ドール賞が近づいて来る。中継を見ている私は受賞者が決まっていく度に拍手しながらも本音はまだ残っているぞという不肖な期待を重ねる。そしてついにスパイク・リー監督と是枝裕和両監督が残り、スパイク・リーの賞が発表されたとたんに、ああ是枝監督がパルム・ドールだという感動が始まった。
今はテレビマンユニオンから独立し、さらに新しい世界を広げていこうとする是枝監督の静かだが激しい熱情とまたどこで出逢えるか、楽しみである。
重延 浩