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雪は黒い

 

東京に雪が降りました。

樺太で生まれ、札幌で育った私は雪の積もる東京の混乱を見ながら、町が白く染まる美しさを無責任に楽しんでいます。それにしても東京の雪は湿気を含んで重いですね。

北海道では肩に積もった雪を手で払う動作を「ほろう」と言います。手で肩をはたくと雪は肩から飛び散る軽さです。雪が舞うという言葉どおりの浮遊をします。「ほろう」の音感は放浪を感じさせて私の好きな言葉です。東京では通じません。

小学生の時、宿題の詩に「雪は黒い」と書いたことがあります。大通公園に積った雪の中に飛び込み、ひっくり返って空を見ます。空から落ちてくる雪は、雪雲の空を背景に黒くて柔らかい粒となって左右に揺れながら降ってきます。雪は白いという色感を否定しようと思った反抗的な私は、それを詩に書き、先生に怒られます。「黒いわけないだろう」。でも本当に黒いのです。傷ついた幼い詩人は、また雪の中に飛び込み一人で空を見て、憤慨していました。そんな思いを救ってくれる新聞記事を60年の時間をおいて読むことになります。2012年1月12日の朝日新聞。野村萬斎の狂言「木六駄(きろくだ)」についての解説記事でした。大雪の中、太郎冠者が歳暮の酒樽を都に届ける道中、その時に降りしきる雪を太郎冠者はこう表現します。「降るわ、降るわ。こりゃまた真っ黒になって降る」。筆者はそれを薄明かりの中、シルエットになって降る雪のことだろうと書いています。その通りです。

雪を白いとは書かない同志を見つけて、なぜか私はちょっと幸せになります。気質はどうやら60年前からちっとも変わっていないようです。そんな日の雪は温かいのです。