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私の書棚 その7

少年の頃から私の心の中にいつも遊び心があった。遊ぶという心は誰にもあるのではないだろうか。と言いつつその遊び方は見せたくない気もする。本音を覗かれるような恥ずかしさがある。でもこの書棚シリーズの終わりにあたって私の書棚にある遊び心の本を初めて公開する。これは会社にある書棚ではなく、秘かに家の書棚に並べてある。

まずは少年時代に読んだ山川惣治の劇画『少年王者』。アフリカ、コンゴの奥地で一人生まれ育った日本人少年の物語。終戦の年1945年に紙芝居として生まれた。子どもたちにとって紙芝居はテレビなき時代のメジャーエンターティンメントだった。集英社がこの作品の成功で出版社として自立したという。小学生の私にとって、劇画、漫画の原点となる。

少年王者 

 

 

大友克洋のSF漫画『AKIRA』

1980年代に描かれた未来の「ネオ東京」は2019年を想定していた。私たちは間もなく「AKIRA」の創造したネオ東京の時代に生きることになる。

AKIRA

 

 

小松左京の『日本アパッチ族』

1960年代の小説だったが、妙に現代に通じる喜劇的小説。描かれた日本は戦争の痛みを忘れ、陸海空軍が存在する時代になった。すでに核武装もされた。犯罪人として思想犯にさせられた人は流刑地に追放された。しかし大阪の犯罪者が隔離された「大阪追放地」から反乱を起こす。さあ日本はどうなるか。東宝の新進気鋭映画監督岡本喜八がクレージーキャッツ主演でこの小説の映画化を企画したが実現しなかったという。実現していたらどんなに奇想天外で面白かっただろうかと思うのだが・・・。

 

 日本アパッチ族

 

 

国枝史郎の『神州纐纈城』

三島由紀夫や澁澤龍彦に絶賛され、暗黒の奇書とも言われた。この本を契機に、小栗虫太郎や江戸川乱歩、夢野久作、久生十蘭などの幻想的な小説が時代のブームになっていった

 

 神州纐纈城

 

 

『家畜人ヤプー』 沼正三

『家畜人ヤプー』は、1956年から『奇譚クラブ』に連載された沼正三の長編SF・SM小説。優秀な学生瀬部麟一郎はドイツ留学中に、クララと知り合い恋仲になった。UFOの墜落事故を見てクララが上げた悲鳴に、水浴中だった瀬部が裸で飛び出したとき家畜人ヤプーと誤認され、体の改造や去勢をされ、クララの家畜として仕立て上げられていき、彼女と想像を絶する体験を強いられることになる。三島由紀夫や埴谷雄高が”天下の奇書”と絶賛した。

 

 家畜人ヤプー

 

 

アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』

『悪魔の辞典』The Devil’s Dictionary1911年に発表された。辞典として単語を定義していくだけの作品だが、ビアスの再定義により、ブラックユーモアに富んだ辞典となった。100年以上前の作品だが見事に現代を読みぬいたパロディになっている。

戦争…平和の技術が産み出す副産物。国際親善の時期に、政治情勢が最大の危険に直面する。
政治…主義・主張の争いという美味のもとに正体を隠している利害関係の衝突。私益のために国事を運営すること。
外交…祖国のために嘘を言う愛国的行為。
平和…二つの戦争の時期の間に介在する、だまし合いの時期。
幸福…他人の不幸を眺めることから生ずる快適な感覚。
歯医者…お前の口に金属を入れ、お前のポケットから硬貨を引き出す男。

 

悪魔の辞典

 

 

バックミンスター・フラーの『宇宙船「地球号」操縦マニュアル』

大好きな宇宙を飛翔する飛行法かと喜んで買ったが、実は地球の未来学だった。フラーは地球を閉じた宇宙船にたとえ宇宙船地球号と呼ぶ。この本では地球の有限な資源をいかに適切に使えるかを語る。地球と人類が生き残るためには、専門化された論理では解決できない、地球を包括的・総合的な視点から理解することが重要とし、そのためのマニュアルを説いた。経済学者ケネス・E・ボールディングはその理論を経済学に導入した。

 宇宙船「地球号」操縦マニュアル

 

私の書棚には選び抜かれた1000冊以上の本が並ぶが、その中でも、幻想の世界にありながら、最も「人間」を描いている美しい書は何かと問われれば、私は『ギリシャ神話』と『旧約聖書』ではないかと思っている。

私の書棚にはその2冊が最も大切な本として飾られている。
聖なる書なので、写真の掲載は控える。
皆さんの書棚にこの2冊をおすすめしたい。 

重延 浩