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青森からの美の創造 

2013年7月18日、三宅一生さんの素敵なイベントが東京であり、私はその映像制作に協力しました。青森大学男子新体操部の実技に感動した三宅一生さんが、体で表現するそのままの姿を人間の美学としてとらえなおそうとしました。そのことに10代、20歳代の若い選手たちがどう反応するか。私は青森山田高校の体育館で行われるリハーサルを見に行きました。演出家のダニエル・エズラロウがどのように若いアスリートを誘導するのかを見たかったのです。男子新体操は日本が生み出した新種目です。青森大学男子新体操部はその中でも抜きんでた成績を日本で示していました。体の極致をスティック・リング・ロープ・クラブの4種目で演技します。それが「ひと」そのものをそのまま表現していると思った三宅一生さんの直感を東京のステージで再生しました。

7月18日、代々木第二体育館でそれは幕をあげました。たった一回限りの「美の状況」です。およそ3000人の観客が招かれ、その舞台の2階に集まりました。1階の舞台は360度の円形です。円いステージはすべてが青い海でした。その海は「一枚の布」でつくられていました。「一枚の布」は三宅一生さんの生涯のテーマです。1970年代から三宅さんの衣装は一枚の布で体にまとわれます、人が動くことで衣装は完成します。敷き詰められた青い広大な一枚の布がやがて青森大学男子新体操部の選手たちに持ち上げられ、中央に風をはらんで舞い上がります。それは10メートルほどの空気を孕んだふくらみになり、やがて沈んで波になります。会場から感動の声がこぼれます。その波の上を選手たちはまるでイルカのように次々と飛びます。

全日本チャンピオンたちが、はじめて3000人の観客の中で舞います。観客の感動はやがて人間への信頼に近いような共鳴に変わっていきました。若さへの憧憬と追想が観客に生まれ、そこに美しい空気が流れます。選手たちが自身の真正さを穢れなく見せます。誰もが息を飲み、その若さの流動に魅せられていきます。最後に選手たちは三宅一生さんがデザインしたユニフォームを一人、また一人と脱ぎ捨て、舞台を去っていきます。観客はそのエンディングに一人一人の若い自立を想い、未来を予感させる哲学を感じます。円形の会場はスタンディングオーベーションの輪になります。

私はそこに映像で、最も新しい4Kのカメラを持ち込みました。NHKメディアテクノロジーに連携をお願いし、最新の4K4台のカメラで録画しました。SONY FF55による撮影ですが、そのうち一台は朋栄のハイスピードカメラFORA FT-ONEでした。ハイスピードは毎秒300コマの容量を持ちます。私は4Kがテレビジョンを越える「状況のカメラ」になると考えています。映画はもちろん、舞台、音楽、イベントをそのまま収録でき、大画面で見ると、決してカメラ割りにリードされることなく自分の視線を定め、自分の網膜をズームインさせることができます。それは未来の映像としてはインテリアにも、建築にも、宇宙映像にもなりえます。テレビジョンのフレームを越えていく機能を予感します。4Kそしてそれに続く8Kは私の望む「状況の創造」に手を差し伸べるテクノロジーなのです。

今、ISSEY MIYAKE INC.にアクセスすると、青森大学新体操部のステージの映像が見られます。
映像作家中野浩之さんがとても素敵にこのステージを表現しています。どうぞご覧下さい。 

 ●青森大学男子新体操部 ショートフィルム