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『世界ふしぎ発見!』 30周年に思うこと・・・

 『世界ふしぎ発見!』は今年30周年を迎えています。私も1年目からゼネラルプロデューサーを30年皆勤で務めていることになります。そして今年でまだ30歳だと若さを気取っているプロデューサーです。

 一体30年前はどんな年だったかと思い立って調べてみました。1986年のことです。3月にあのハレー彗星が76年ぶりに地球に大接近した年でした。何かが起きる年だったのです。その4月に『世界ふしぎ発見!』の放送がはじまりました。この番組はハレー彗星の落とし子かもしれませんね。

 今年私はひそかにある秘密のたくらみを考えていました。それは30年前に訪れた所への取材を再現することでした。1986年の最初のラインアップは第1回がエジプト、第2回はメキシコ、第3回はインドネシアでした。それぞれの古代文明を旅したのですが、視聴率は6.5%、5.6%、3.5%と惨敗でした。週刊S誌に「この番組のプロデューサーはクビになるだろう」と書かれたことを今もはっきりと覚えています。その同じ国に30年後の今、また取材し、一体どのくらいの視聴率が取れるものかをためしてみたいと考えたのです。今の『世界ふしぎ発見!』のチーム力は30年前に較べ、大きく成長しています。視聴率は30年前より大幅に高くなったことを週刊S誌の記者に見返してやりたいという私のいたずら心もありました。しかし30年が経って時代は大きく変わっていました。結果的には個人的思惑をはるかに超える事件に巻き込まれる現実を見せつけられることになりました。

 今年度4月からの第1回放送を予定していたエジプトではテロ、暴動が多発する事態になり、その取材はきわめて危険なものとなり、取材者、出演者の身の安全を優先すると、取材申請はあきらめざるを得なかったのです。416日の放送はエジプトに代えて、オリンピック開催地のリオデジャネイロに急遽変更しなければならなくなりました。でもブラジルではジカ熱のリスクが強まっていました。政治、経済も崩壊寸前の事態となっていました。放送当日、その未明に起きた熊本地震で、NHKの地震特報が裏番組になり、TBSL字型文字のニュースの囲む小さな枠での放送になりました。視聴率は7.5%でした。

 423日の第2回の放送はメキシコでした。30年前は密林に残る古代文明の遺産を探しに行きましたが、30年後はメキシコに広がる大砂漠での色々な生命体をお見せしました。ご存知の方には懐かしいディズニーの映画『砂漠は生きている』の世界です。第2回の視聴率は見事10.0%でした。しかしちょうどそのころ、北朝鮮は世界を威嚇するようにミサイル状の発射体を幾度か実験しました。アメリカ本土まで届くかもしれないミサイルの可能性をちらつかせ、自国の力を誇示します。北朝鮮は『世界ふしぎ発見!』が未だに取材できていない国です。将来、北朝鮮を平和的に取材することが、私たちの夢なのです。どんな国にも人間の文明のすごさを正当に理解する人はいるはずですから。

 3回のインドネシアは古代からの火山と文明の関係を踏査しつつ、30年前に取材したボロブドゥール遺跡を訪ねました。30年前、クイズに「この遺跡に一番数多く描かれている動物は?」と出したところ、スタジオの衝立能らに用意されていた正解のゾウが吠えて、それでも黒柳さんは「犀」という答えを書いたという珍説が伝説として残っています。視聴率は3.5%。30年の歴史で最低の視聴率でした。しかし今年も波乱にとんでいました。熊本地震に続く阿蘇火山の噴火の危険を感じながらのインドネシアの火山地帯の命がけの取材となりました。視聴率は10.6%。想定通りの高視聴率でしたが、それを素直に喜べない世界の緊張が続いていました。放送の日、シリアの反体制幹部は一時的停戦の終了を宣言し、戦闘をはじめ、イラクは非常事態宣言を発令します。トルコ南部ではテロの爆発による死者が出ました。

 30年前の『世界ふしぎ発見!』は世界の4大文明であるエジプト、メソポタミア、インダス、中国を視野に入れた平和が当たり前の企画書を書けました。今はその4大文明すべてに色々な緊張が漂い、『世界ふしぎ発見!』の主要舞台である古代文明を安心して旅することが出来ません。スタッフは「えっ、あのイスタンブールの空港で…」とか、「あのニースの海岸で…」とか、行き慣れた場所の悲惨な出来事に驚かされます。平和から戦乱、示威行為、テロへと悲しい事件の連続。果たして人間はこの30年、進化しているのかどうかと思わせる時代変化です。精神性の退化が、技術の進化を上回っているという恐ろしい懸念を持つのは私だけでしょうか。そんな中で、『世界ふしぎ発見!』は人間の精神を最高の平和資源と考えて、日々の制作を平和の理念とともに静かに続けています。スタッフの働くところに漂う空気は今とても平和です。危ない社会におびえたのか、あのポケモンのモンスターたちが時々私の部屋に逃げ込んで来ます。(笑)