column

どの言葉にも深い意味がある

<2018年4月30日 記>

社会は急速に変化し、各企業の新しい目標が設定される。その変化に対応する人事の異動も多く、名刺が私の机の上に何枚も重なっていく。異動した新しい所属先名はカタカナが多く、その役割の意味がわからないことも多い。そんなカタカナ新文明が進行しているようだ。

 などと他人事のように言いながらテレビマンユニオンの名前も全てカタカナである。「テレビという方法論であらゆるメディアに挑戦する制作者集団」という意味だったが、創立当時、領収書にテレビマンユニオンと書いてくださいと言っても、精算をする時あらためて見るとテレビマンオニオンという玉ねぎ会社になっていて悲しかった。早く領収書に間違いなく書かれるような会社になりたいと思った。

 上海万博のイベントのプロデューサーをしていたとき、テレビマンユニオンの名前が翻訳されて電視工作者連盟と書かれていた。なるほど中国語ではこうなるのかと思った。帰国するとき上海の空港で荷物を預けていると、空港警察が麻薬の匂いを嗅ぐ犬を連れてきた。その犬の首に下がっていた札を見ると「工作犬」と書かれていた。なるほど工作とはこんな大変な仕事もするのかと思うと妙に納得し、働いている工作犬を同志のように愛おしく思った。 

言語は奥深い。アルファベットの名前にも色々な思いがこもっている。英語に私の好きな接頭語が2つある。CoとPhilという接頭語である。Coには「人と共に」という思いを感じる。Communicate, contact, coordinate, compromiseなどの動詞が思い浮かぶ。名詞にもConcept, concert, comradeなどの素敵な名詞がある。コンテンツ(Contents)という言葉は、デジタル系メディアが使いはじめたが、時間を埋める中身という語感があり違和感を覚えた。だがContentの意味を辞書で引くと「概念」という意味を持つことがわかった。概念には想像するという思いが感じられ、番組を創造物と言いたい私も以来コンテンツと言われても納得するようになった。Philではじまる言葉には博愛、愛好の意味がある。その中にPhilosophyという重要な言葉もある。Philobiblicは読書好きを意味する。Philharmonic Orchestraは音楽を愛する人の交響楽団の意味になる。だからシネフィルという言葉をいつかは使ってみたかった。 

1996年、イマジカから私にCSの映画チャンネルを一緒に考えないかという話があり、喜んで参加した。名画のチャンネルにしたいという両社の思いが一致し、チャンネル名をシネフィル・イマジカとした。シネフィルは映画を愛する人という意味である。そのチャンネルで色々新しい試みを果たすことができて楽しい事業だった。映画を純粋に楽しむためにノーカット・ノーCM、吹き替えなしの放送を標榜した。スタート時は契約者が5万人という時代だったので購入費を節約するため同じ映画を丸一日繰り返し放送したことがある。自分の好きな時間に合わせてその映画を見るロードショー形式を謳って、初期のチャンネル経済を維持した。CSの契約者が増えるにつれ、名画の放送に徹底したコンセプト、フィロソフィーに賛意が集まり契約者も増えて順調な成長を遂げた。個性的映画チャンネルと言われ、評価も高まった。2012年、IMAGICAティーヴィがCSだけではなく、より多くの映画ファンを期待できるBSでの放送に向かい、イマジカBSに改名した。シネフィルの名前とともに私はプロデュースの役割を終えた。時代の変化である。それから5年後の2017年、WOWOWが新しいチャンネルを計画し、素敵な名前と思っていたシネフィルという名をぜひ使わせてほしいという希望が来た。私は喜んでその名前の復活に賛成した。2017年10月1日、シネフィルWOWOWが始まった。映画を愛するチャンネルの名前が久しぶりにテレビモニターに映って嬉しかった。その名前も今はWOWOWプラスに変わった。 

そのシネフィルWOWOW時代の放送で、『黄金狂時代』、『荒野の決闘』、『ローマの休日』、『ひまわり』などの古典を見ながら、2015年制作という映画『ニュースの真相』に出会った。2004年に起きた実話を映画化した作品である。ケイト・ブランシェットとロバート・レッドフォードの共演に心惹かれて見た。再選を目指していた現職大統領ジョージ・W・ブッシュに軍歴詐称の疑いがあるという証拠をCBSの女性プロデューサー  メアリー・メイプスがつかみ、ダン・ラザーがキャスターを務める報道番組『60ミニッツ㈼』で、そのスクープを報道した。しかしその報道を裏付ける証拠文書は偽造されたものとブロガーが発表し、保守系の陣営がCBSを一斉に攻撃した。CBSは調査委員会に真相を調査させ、「基本的なジャーナリズムの手順が踏まれなかった」として、反論するメアリーを解雇、CBSのその判断を受けてダン・ラザーも辞任を表明した。映画はその裁定が外部からの圧力によるものと匂わせている。 

私は『60ミニッツ』という番組が始まったときからのファンで、ウォルター・クロンカイトやダン・ラザーにアンカーマンの強い姿勢を感じ共感をおぼえていた。だから、その映画の台詞を心傾けて聞いた。ロバート・レッドフォード演ずるダン・ラザーは番組を辞する最後の言葉として「勇気」という言葉を一言だけ言い残して去っていくエンディングに感動した。華麗なラストコメントだった。思えば「勇気」という言葉は私の好きな接頭語Coではじまる「Courage」だった。

(重延 浩)