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2024年、劇的な変化がはじまる

<2024年3月15日 記>

■2024年2月、悲しい訃報が入ってきた。指揮者小澤征爾さんの訃報である。テレビマンユニオンと小澤征爾さんとの親密な関係はテレビマンユニオンの初代社長萩元晴彦がTBS在職時代に演出した『現代の主役 小澤征爾“第九”を揮る』から始まった。テレビマンユニオンでは萩元と小澤征爾さんの信頼を継承し、『北京にブラームスが流れた日〜小澤征爾・原点へのタクト』(1978年)、『先生! 聞いてください—斎藤秀雄メモリアルコンサート—』(1984年)、『赤い夕日 小澤征爾、故郷の指揮台に立つ』(1994年)など数々の小澤征爾さんの番組を制作した。
 1998年、長野オリンピックにおける開会式・閉会式の総合プロデューサーを務めた長野県出身の萩元は親友の小澤さんに協力を依頼。世界各地をテレビ中継でつなぎ、小澤さん指揮のもと世界が同時に第九を合唱するという企画を実現させた。私はその会場に坐って、小澤さんの指揮から生まれる世界の人と人との音楽による心のつながりの姿を感動して見続けていた。萩元が世を去ったあと、小澤さんは恩師齋藤秀雄を記念して、長野県の松本を舞台に世界水準の音楽を発信する「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」(のちの「セイジ・オザワ松本フェスティバル」)という音楽祭をはじめた。萩元と小澤さんの深い友情を感じる。その小澤さんの指揮棒がもう振られることはない。彼の指揮棒から生まれる人々の感動はもう生まれない。小澤さんに深く深く哀悼の意を表する。テレビマンユニオンは今は静かに小澤さんの死を悼み、いつか映像として残している数々の小澤さんの記録を番組としてみなさんにお届けしたいと思っている。

■2024年のお正月。神社には参拝の人々が並んでいた、そんなときの大きな大地の揺れ。能登半島の災害で家屋を失い、多くの方々の命が失われた。それは大きな命の喪失である。
 人の生命というものを深く考えさせられた今年のお正月から、ふと現実の社会に戻ると、そこには現代のいろいろな新しい現象がひしめき合って動いていた。人間は今、デジタルの新世界に立っている。立たされていると言った方が良いのかもしれない。人はこれからこの人工的なデジタルの世界をどのように生きていけばよいのだろうか。人工知能AIの正体は? AIはまだ現れたばかりで、それがさらに進化するとどのような存在になるのか、これからの社会はAIによってどう変わっていくのか。AIにAI(愛)はあるのだろうか? 私がAIという言葉をはじめて聞いたのはマサチューセッツ工科大学人工知能研究所の創設者だったマービン・ミンスキー氏からである。今から40年ほど前のことである。彼の語る人間の心のシステムの話は極めて魅力的だった。その時のミンスキー氏の取材をTBSの『日立テレビシティ』という番組で放送した。だが視聴率は1.9%、その低視聴率が日立テレビシティという番組の終了のきっかけになったと聞く。

■TBSは急いで日立テレビシティの後番組を考えていた。そのころ、私は電通に歴史と自然のふしぎを探り、人間の知恵や愛、地球の大自然の姿の奇跡をうたう「セブンミステリー」という企画書を提案していた。それが電通の山積みの企画群に埋もれていた。ひとりの電通マンがその山からそっと胸に隠して持ち去った。それが私の提出した企画書「セブンミステリー」だった。その企画がTBSにわたり、新企画として日立に渡されたという。こうして企画者の私の知らない間に実現していったのが『日立世界ふしぎ発見!』だった。それから38年、私は『世界ふしぎ発見!』の企画者、プロデューサーとして、この番組に心をささげた。だが、その番組が今年の3月でレギュラー放送を終了することになる。なぜ終了の選択がなされたかとよく聞かれるが、時代の状況が変わったからと言った方が正しいのだろうと私は思っている。歴史が変化したのである。あらゆるものに永遠はない。時代は『世界ふしぎ発見!』の終了を選んだようだ。

■2024年のはじまりは、不確定な時代を象徴するように能登半島に地震が起きた。さあ、現実に目を覚まさなければならない。放送というメディアがどう動いていくのだろうか。配信との共同体姿勢は当然の流れである。番組を制作し、それを送るという放送はそれを見る視聴者の受動的メディアだったが、配信は自己選択の能動的なメディアである。この受動から能動へと変わりつつあるメディアはこれからどのように動いていくのだろうか。
私たち制作者は、受動と能動の両方を視野にいれたメディア意識を今構想している。そのためにも人間という知的生物体がどのような心をもって未来的に生きていくか、その心理状態をまず知らなければならない。そして、人間にとって幸福と思えるあたらしい時代を創造することがメディアの使命であろう。これからは「人間ふしぎ発見!」をすることが大切である。それがAIにつながる新しい創造性かもしれない。AIが「愛」であることを心から祈りつつ…