column

ふりかえりみればはづかしきかな

<2019年1月31日 記>

2019年1月1日のこと。正月の日の出も見逃す怠惰なベッドからようやく起き上がり、新聞を手に取る。その分厚さが「元旦」を感じさせる、重い新聞を持ち上げて上下に振ると、中に挟まれているチラシがどっと抜け落ちて軽くなる。その新聞を抱えてもう一度ベッドに戻り、ぬくもりの中で一面から見る。これは昭和世代のいつもの正月である。新聞を定期購読しない平成世代の正月はどんなふうに始まるのだろうかとふと思う。

 「変わらないことがリスクだ」「脱昭和」。という見出しの字に目が覚める。少し悲しい思いがする。昭和世代は過激だったはずだ。脱戦争を唱えなければ悲劇がまた訪れることを知っていた。改革に身を挺していた人も多い。脱するのではなく、そこからさらなる改革を続けていってほしいという昭和的思いがよぎる。

 岩波書店の広告。「基本を学ぶ。自分で考える」の至言。日本国憲法の3つの柱、「国民主義」、「基本的人権の尊重」、「平和主義」を支える最も基本的な原理は「人間の尊厳」ですと説く全面広告を正視する。

 「昭和」は「昭和」なりに、「平成」は「平成」なりに人々は共存して来たように思う。そこに現れた新科学技術。それは時代を排するための武器ではなく、時代を創っていく道具であってほしい。自分が時代に拘束されているなどと考える自分からまず脱すること。それこそが新しい時代の創造ではないだろうか。 

広告。トヨタイズムという赤い字の全2面広告。各紙に掲載される。その男はこう宣言したという。「クルマをつくる会社ではなく、モビリティの会社になる」と。「われわれはクルマではなく、未来をつくる」。「ホントに変わるの?」という逆説も併記する広告は珍しい。その自由感を評価する。講談社の「いちばん遠くまで行ける乗りものは、想像力かもしれない」というコピーにもうなずく。野村グループの「“今”以上の“未来”」、SEIKOの「ただの数字じゃない TIME IS  WHAT  I  AM 」。素敵な新年のコピーだと思う。 

「つながる100億の脳」という見出しをトップにする新聞もあった。「テクノロジーの進歩が速度を増し、人類は2050年に肉体や能力の限界を超える。幸福のあり方も根底から覆る未来。岐路に立つ人間は新たな価値観を創り出すときに来ている」と指摘する。

 将棋棋士・豊島将之さんは語る。「人が自分の感覚も大事にしながら指さないと勝てないと思うし、個性も出ない。ソフトの示す手が最善の可能性が高いので、そこで得た知識を知恵にできれば、人間も一段階上のレベルに行けるでしょう。」

 AIという機械が生み出す新しい文明が来ることも必然の時代、それに日本の経済、生活形態、生命、情報管理が委ねられ、機械と人間が共存する時代は必然となる。だがAIの弊害の部分を指摘する社説もある。「インターネットが普及し始めた当初、IT(情報技術)は情報格差をただし、人を水平方向につなぐ技術と思われていた。『eデモクラシー』という夢の構想も語られた。ところが、ビッグデータとAIの組み合わせは、巨大IT企業とユーザーを垂直に再編している。政治的に見れば、SNS(交流サイト)は人びとの不満を増幅させて社会を分断する装置にも、権力者が個々にプロパガンダを発信する道具にもなり得る」。 

指揮者小澤征爾の正月の言葉。「日本は何が素晴らしいかと言うと人間」。「もっと世界とあちこち混ざらないと。絶対狭くなっちゃだめです」。「最近少し危ないところがある」と見抜く。

 パルムドール受賞の是枝裕和監督が朝日賞を受賞した。その言葉。「やりたいことはたくさんある。それをどう実現していくか」。レッテルを貼られることは好きでない。社会派というレッテルに「その言葉から人々が思い浮かべるのとは違う形で、社会性のある映画を作って行きたい」。別紙では「(既存の枠組みに)自分をどう合わせるかという意識では、社会や制度を更新していく発想が育ちにくい」とも。

そういえば一人の中学生が“詩”で、人のそれぞれの道を「邪魔されてたまるか!!」と叫んでいた。

 漫画家ヤマザキマリさんと養老孟司さんの対談。ヤマザキ「今って民主主義と言いながら、批判とか風刺とかを許さない窮屈さがありますよね」。養老「僕が見ていると、今は戦時中の日本とそっくりです」。「ある意味、成功しすぎたんでしょうね」。

 毎日芸術賞の大林宜彦監督「映画のハッピーエンドは、実際には戦争はアンハッピーなことが多いから、いつか平和になってハッピーになれるように願って作られたものです。世界からハッピーエンド映画が必要でなくなるぐらい平和で穏やかな世界にしたいものです」。

 『男はつらいよ50  おかえり、寅さん』を制作中の山田洋次監督は、寅さんだったら今、私たちにどんな声をかけてくれるか…」とつぶやく。葛飾区の柴又にある「さくら像」。エプロン姿で寅さんを見送っている。その左足に倍賞千恵子さんが書き入れた「さくら」のサインがある。それともう一文字「ち」の字が彫られている。「さくら」の「さ」とこの「ち」の二文字に触れると幸があると教えてくれる記事もある。 

新しく見つかった昭和天皇直筆の心こもる御製(ぎょせい)も正月の紙面を飾る。鉛筆でつづられていたという。

  國民の祝ひをうけてうれしきも

    ふりかへりみればはづかしきかな

 元旦の新聞は重い。さて、もう一眠りしてゆっくり考えよう。AIが、愛でありますように。

(重延 浩)

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