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テレビマンユニオンが50歳になったとき…

<2020年2月25日 記>

「組織は愛である」という言葉で動いた一人のメンバーがいた。初代社長の萩元晴彦さんである。萩元さんの著作『赤坂短信』をひさしぶりに開いてみる。萩元さんは自由学園の師、羽仁吉一先生が残した言葉をこの本に書き残している。「組織は愛である」。「組織は強制ではない、信頼である」。「組織は形式ではない、生命である」。 

テレビマンユニオン創立から5年目の1975年12月18日、萩元さんがプロデュースし、今野勉さんが演出、仲代達矢さんが主演したドキュメンタリードラマ『欧州から愛をこめて』の放送が実現した。それは萩元さんが好きな言葉「あらゆる素晴らしいことは、一人の人間の熱狂から始まる」の実現だったと一人のアシスタントにすぎなかった私は感じていた。

ある日萩元さんは社長室に私を呼んだ。「この番組を放送する日に誰もが目を向ける告知をしたい。そしてテレビマンユニオンという無名の組織の存在を世に広めたい。だから俺は放送の日の朝に配られる朝日新聞に全四段の大きな広告を打ちたい。そのキャッチコピーが必要だ。それをお前が明日まで考えてこい。1つじゃだめだ、3つ書いてこい。それでテレビマンユニオンの未来の命運をかけるのだ」。いつもの荒っぽい社長指示だった。でも私が思いついた案はたった一つだけだった。翌朝、萩元さんにおそるおそるそれを差し出した。「すみません。一つしか思い浮かびませんでした」。萩元さんは私の怠惰を責める表情を残しながらそのコピーに目を止め、そして私を振り向くことなくそのままそのコピーを確かめに来ていた新聞社の客に手渡した。意外な答えがすぐ返ってきた。「わかりました。これでお受けしましょう」。その私のコピーとは、「小さなテレビマンユニオンがなぜ大きな新聞広告をするのでしょう」だった。それは若い私のつぶやきを正直にそのまま書いたものだった。なにせその広告費は私の年収の4倍もするものだったから…。でも萩元さんが黙ってそのコピーに共感してくれたのがうれしかった。 

広告の本文は萩元さんが書いた。そこには今も続く参加メンバーたちの自立と責任の精神が書かれている。「私たちの会社は普通の会社とはちょっとちがっています。メンバー全員が株主で、組織に対して同じ権利と義務を持つ。会社に管理されるのではなく、想像力と才能があれば、自分が目指す仕事を実現することも出来る。そのために組織が必要であり、時には組織のために自己を犠牲にもする。そういう人間の集まりです」。その広告は放送界、広告界の大きな話題を呼んだ。

2代目社長村木良彦の残した言葉「創造は組織する」、「私の内なる火山をつくる」、「テレビは現在である」、「テレビはジャズである」―そんな言葉を受けて、12年目から私が3代目社長業を受けた。選挙の結果にも促されて、それから18年も社長業の義務を果たし、そして創立30周年を迎え、その年の秋60歳となったので社長職を辞すことを決意した。それは「私自身にもっと創造の時間を下さい」と言う一メンバーとしての切なる願いでもあった。だが60歳の誕生日を祝い、家族と乾杯の杯を上げた瞬間、萩元夫人から夫の他界を知らせる電話が入った。

カザルスホールでの「萩元晴彦さんを送る惜別の会」に松本のコンサートから駆けつけた小澤征爾さんが「私は今日、あなたが毎日通っていた松本深志高校の道を歩いてここに来たのです」と涙をぬぐいながら舞台上で指揮をした。その日、お客さんに渡されたのは萩元さんが好きな「夢」という一文字が書かれた野球ボールだった。萩元さんは私に会長職の席を空け、私は18年経った今もその席に坐り続けている。2013年、私は『劇的テレビマンユニオン史・テレビジョンは状況である』(岩波書店刊)を執筆した。テレビマンユニオンは音楽、そして映画への道を広げ、さらに長野オリンピックや上海万博の創造に参加した。これからはテレビマンユニオンはテレビにとどまることなく「状況を創造する」組織だと私は考える。 

「歓喜に満ちた人間の創造が状況を動かす」という言葉をその本に残した。これからの歴史をさらに劇的な状況にする。それが私の未来への命題である。「夢」という言葉に私は「心」という文字を重ねる。社会が自由と民主主義の原義を曲論し、悪しき活用をする姿が見え隠れする中、デジタル時代をどう素晴らしい状況にできるか、それが私たちの命題である。テレビマンユニオン50周年にあたり皆様には深く感謝の頭を下げる。頭を上げるときは、もう次なる劇的なデジタル時代の「新しい状況」を創りはじめることになる。心暖まる「デジタルヒューマニズムの時代の創造をはじめる」と私は強く宣言したい。

 コロナにも、この私の信条に耳を傾けてほしい。

(重延 浩)

 

 

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